『秘密のケンミンSHOW』など数々の人気番組でリサーチ・構成に携わってきたライター兼番組リサーチャーの辰井裕紀さんが、全国のEVドライバーに「ぜひ行ってほしい」スポットを紹介する本企画。今回は、熱海の「アジフライ定食」をご紹介します。
熱海にやってきました。

かつて寂れかけた熱海が「復活」と言われて久しいこのごろ。
最近の熱海は「若者に人気」という言葉どおり若者の姿も見かけつつ、平日なのでご高齢者も目立ち、にぎわいながらも落ち着いた観光スポットという感じです。

いつの間にか「ベタすぎる」という理由で、こういうザ・観光スポットが敬遠されていた時期がありました。
しかし、ザ・観光スポットだからこそ楽しみやすい店やルートが数多く存在し、観光地だからこそ巡るべきお店もあるのです。
そんな熱海の名物と言えば、温泉、干物、花火、金色夜叉……いろいろとありますが、意外と知られていないのが「アジフライ定食」ではないでしょうか。
熱海を代表する魚のひとつは「アジ」で、もっぱら「アジの干物」として長らく地元の人から旅人まで愛されてきました。
しかしアジフライ定食ほど、庶民的な日常のごちそうとして親しまれながら、そこまで観光名物として押し出されていないものは、珍しいように感じました。
今回は、この「アジフライ定食」が評判の、ぜひ行きたい魅惑の3店を巡ります。
網代漁港の朝どれアジフライの定食が毎日食べられる価格!
まずは……熱海駅前第一ビル(ATAMIX)へ。

熱海に行ったことのある人なら思い出す、駅前にあるちょっと古めかしい感じを醸し出すあのビルです。
少し渋いお店が建ち並ぶ地下1階……その一角に「和食処 結」は存在しました。

待ってくれていたのは地元・熱海市出身の店主・野田静さん。
店名「結」の由来は娘さんの名前から一文字取り、「皆の心をひとつに結んでくれるようなお店にしたい」という思いが込められているそうです。

お店の営業時間は平日11時~14時、土日祝は11時~15時と短期集中型。その間、満席状態が続きます。
ちなみに店の風景は営業終了後に改めて撮ったものです。

それでは、堂々の一番人気・アジフライ定食をいただいてみましょう。このアジフライ定食は多いときで、1日に60~70食ほど出るそうです。こんな小さな店でそんなに出るとは。

そして程なくしてやってきたのは……
アジフライ2つの配置もすばらしく、端正な見た目の「アジフライ定食」です。なんと900円! 観光地価格の店も多い熱海では出色の安さです。
リーズナブルな価格帯で提供できる理由は、「魚屋を通さず、自分たちで魚市場で仕入れるから」だとか。

上から見てみましょう。美しい定食は様々な角度から見たくなるのです。

野田さんは朝4時半ごろに網代漁港の市場へ行きアジを選び、5時半ごろからアジを開きはじめます。
アジを開いた後は、自らつくった海水と同じ塩分濃度の水に少しつけて保水し、冷蔵庫で冷やす下処理を施してから、お店でアジフライにしています。
「まずは何もつけずに、アジそのものの味を感じてほしい」との言葉どおり、そのままいただいてみます。

頬張ったら、たちまちアジの身が口いっぱいに飛び出してきます! 身がホクホク……熱々の身から甘みが立ち上がって風味たっぷりのアジ。思わず目をつぶって堪能したくなる味わいです。
本当に何もかけずそのままで、アジが持っているポテンシャルが十二分に楽しめておいしいぞ!

ソースをかけると、「僕らのアジフライ」的で安心できる味わいに。舌にゆったりと乗るコクを楽しむ、豊かなときが流れます。

身の柔らかさにも驚きます。ちなみにこのアジフライ、この写真の見た目以上にちゃんと大きくて食べごたえがあるんです。
それとともに、炊きたて感たっぷりのごはんが非常においしく感じました。これは大盛りにして腹いっぱい食べたくなります。

そうそう、スパイシーでアラビアータっぽいマカロニも脇を固めてくれました。

最後はレモンでさわやかさすらも味方にして一気に食べきる爽快感! 空きっ腹を大いに幸福感で埋めてくれました。

この「結」には常連も多く、地元の方をはじめ、全国各地にヘビロテ客がいるのだとか。
「日本一のアジフライだよ」という声や、お会計後に「感動しました」と1000円を置いて行かれた客もいた、とうれしく思い出すそうです。
「結で食べるアジフライの感動をぜひ一度味わってもらいたいです。私は絶対に裏切りません。そして妥協は絶対にしません」と力強く宣言する、さすが評判店とも言うべき余韻が残るおいしさでした。
“ハイパー干物クリエイター”の「干物アジフライ」?
次の店へ。そこは熱海親水公園のすぐそばにありました。

ここが「干物と日本酒の店 yoshi‐魚‐tei」です。

ここは、知る人ぞ知る「ハイパー干物クリエイター」こと藤間義孝さんのお店なのです。
熱海市出身の彼が、地元の干物屋で約6年働いた後に立ち上げた「干物屋ふじま」が大当たりし、手がける干物は通販で1年半待ちが続いている状態とのこと。
その一年半待ちの干物がその場ですぐ食べられ、一部おみやげとしても購入できるのがこの店なのです。

これはお店が休みの時間帯に撮影しましたが、来店時は昼のオーダーストップ直前の14時前で、満席の状態でした。
繁忙時は入店まで約1時間待ち、店内でさらに待機することもあるそうです。

今から揚げるアジを見せてもらいます。おお、大きい!

それをオープンキッチンで揚げていきます。

そしてやってきました、これが「干物屋さんのアジフライ定食」(1,980円)!
そう、なんとアジの干物をアジフライにしてしまっているんです。店舗を拡張リニューアルした2020年にスタートしたメニュー。
20食限定で提供しているため売り切れ必至で、どうしても待たずに食べたい人は、開店待ちを狙ったほうがいいとのこと。

くどいようですがこのアジフライ、とにかく大きい! 山盛りになったキャベツを隠すほどに鎮座しています。

一口目が衝撃のうまさで、ジューシーな肉汁が漏れ出てきます。
中にたっぷり身が詰まっていて、さらに干物の香ばしさが口に広がり、たまらぬおいしさが堪能できます。

サイドと中心では食感の質が違い、そのコントラストがおいしさをまた立体的に。骨を一本ごとに抜く手仕事も効いています。
これを藤間さんは「天日干しでうまみが凝縮した干物が、焼いたときに身がふくらむ、予想できないおいしさになったメニュー」と評しており、その興奮ぶりのほどが伝わる出来映えでした。
キャベツがたっぷり盛ってあるのも魅力。ソースをたっぷりかけ、シャキッとうまく噛み進めると、これまた満足感を下支えしてくれるのです。

裏話をすると、食レポ記事は食事前にさんざん撮影してから箸を付けるので、料理に口を付けるまでには3分ほどかかります。
そんな状態で、アジ2本目に到達する段階でも、まだ十分温かくジューシーだったのです。
2本目は味変しましょう。ソースをかけると大衆性が加わり、また貪り食いたくなる味になります。

さらに付け合わせのたっぷりのからしやレモンをかけたり……酸味と辛味で味変も自由自在です。

「ソースをつけても何もつけなくても、どちらでもおいしいのがコンセプト」とのことですが、まさにそのとおりでした。
そうそう、味噌汁の海苔が香り、旅人の心を落ち着かせてくれます。

味噌汁は、アラがある時はアラ汁、ないときには伊豆の地海苔の味噌汁が登場。
しかし藤間さん的には、「実は海苔の味噌汁のほうが食材費が高いので、ウチとしてはサービスしているメニュー」なのだとか。
なお、ハイパー干物クリエイター自慢の干物は手開きで包丁を入れる工程が多く、手間のかかる伝統製法で仕上げるからこそ、熟成のうまみが湧き出すそうです。

干物の漬け込み塩は赤穂の天然塩を使用し、漬け込み液には静岡県産の純米吟醸(英君酒造)も加えることで、塩と魚だけでは出せないうまみや照りを醸し出します。
店名の「干物と日本酒の店 yoshi‐魚‐tei」にもあるとおり、干物や海鮮に合う約40種類の日本酒がそろい、静岡の地酒が2種類あるのも魅力のひとつ。


普段は税込116円のPBカップラーメンをこよなく愛する節約志向の筆者ですが、そんな私でも1,980円が高く感じず、アジフライの概念を変えてくれた逸品でした。
これが「アジフライカツ丼」だ!
最後は……また熱海駅前へ戻ってきました。
熱海駅直結のラスカ熱海で、まさに「灯台もと暗し」のように存在する、摩訶不思議なアジフライ料理があるのだとか。

そこは1980年設立の海鮮問屋・伊豆中(伊東市)が営む「伊豆中ばんばん食堂」です。
この屋号は先代社長が「ばんばん食べてもらいたい」という思いを込めたのだとか。

そこで迎えてくれたのは、ラスカ熱海店の店長・小泉淳平さんです。


そう、「アジフライカツ丼」なんです。小泉さん曰くラスカ熱海店独自のメニューで、10年前のオープン当初から提供しているとのこと。
アジフライが人気の熱海で、自信のあるアジの仕入れを生かしたメニューとして登場したのが、このアジフライカツ丼だそうです。
どうですか、この異彩を放つ姿。アジフライカツ丼を中心に小皿も並び、一種の“アジフライ定食”的な体裁が整えられています。
というわけで「広義でのアジフライ定食」として紹介させてもらいました。
善は急げだ、さっそくいただいてみましょう。

おお……! 単体でもうまいアジフライが、玉子とじの包容力を身にまとってぐっとマイルドになり、つゆの妙味も相まってうまい!
「びっくり箱」的な存在で終わらず、しっかり考えて作られたことがわかります。
タマゴで包まれるとだいぶ性格が変わり、アジフライを食べ慣れた人でも面白いおいしさを享受できる、技ありの一杯です。

アジフライに紅生姜が乗った独特のルックスもここならでは。ごはんは静岡産のコシヒカリを使い、炊きたてを極力提供しているそうです。

小泉さんは七味をかけて辛くして食べるのがお好み。さらに社員がまかないで食べるときは、卵黄を載せて食べるそうで、黄身の濃厚さが加わっておいしいとか。
「『カツ丼』と書いているので、とんかつが入ってると思っちゃうお客さんもいるんですよ。『とんかつが入ってないじゃないか! ……でも、食べてみたらすごくおいしかったよ』なんていう方もいらっしゃいました」
紅生姜と一緒に食べると、アジフライの味変の思わぬ扉がまたひとつ開きます。

ちなみに目立ちませんが、いくつかの添え物が脇を固めているのもポイント。切り干し大根が素朴なおいしさで染み入ります。

みそ汁は非常にオーソドックスでやや塩気が強く、好きなタイプの味わいでした。
そして一気に完食。あまり違和感はなく、実においしく味わいました。新体験ができた、という高揚感が余韻として漂います。
このアジフライカツ丼、平日20食、土日は30食ほど出る人気メニューで、全体で5位に入るときもあるほど。
伊東の市場で競りの権利をもっているため、そこでアジを競り落とすこともあるそうです。
「仕入れの基準はやっぱり脂が乗ってるかどうか、新鮮かどうか。あとは値段ですよね」と語る小泉さん。

さらに、「どうしても紹介してほしい」という、この企画の掟破り的に登場したのが、「揚げ干物」です。なんと120円。

社長が「この食べ方を知ってほしい」という思いで、破格としか言いようがない120円で出しています。
ミニではなく、ちゃんとしたサイズの魚なのです。

干物は噛むほどに凝縮したうまみが湧き出します。干物を干す原風景がフラッシュバックして、感傷的な気持ちがおいしさを後押し。
頭・骨まで食べられる香ばしさが特長で、常連からの指名率が高いそうです。
(☆このページを伊豆中ばんばん食堂ラスカ熱海店の店員さんに見せたら、揚げ干物1枚をプレゼント中。複数人では画像提示をした方のみ対象。2026年7月末まで ※早期終了の場合あり)
「移住者を含めた地元民に愛されている」と語る伊豆中ばんばん食堂。
「アジフライの卵とじ丼を熱海で食べられるのはウチだけだと思いますので、ぜひ熱海に来たらアジフライカツ丼を食べていってください」
ホントにこんなアジフライ料理を出してくれるのは、あなたのところだけだよ!

◇
「熱海? 観光地でしょ?」と軽んずる人にカウンターパンチを浴びせるようなアジフライ定食。
不肖ながら筆者も、アジフライがこんなにすばらしいものとは思っておらず、それを教えてくれた3品でした。
観光地として洗練され、さらに地元の人々が日々育んできたアジフライ定食。漁場としての魅力も含め、その豊かな恵みがもたらす熱海の日常食を堪能できました。
まだまだ熱海にアジフライ料理の店はたくさんあります。自分だけのアジフライ提供店もEVに乗って見つけてみてください。
熱海周辺のおすすめEV充電スポット
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筆者:辰井 裕紀
ライター、番組リサーチャー。過去に秘密のケンミンSHOW(NTV系)などを担当し、ローカルの食文化と飲食チェーンを軸に、その土地で愛されるワケに迫る。著書に『強くてうまい!ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)。卓球とガジェットも好き。
