福岡3大うどん最後の大物・牧のうどん。30分ゆでる麺から餃子(?)まで、牧を知り尽くす男にうまさの秘密を聞いた

「牧のうどん」が好きだ。

いきなり勝手に宣言してしまって恐縮だが、とにかくそう思う。

福岡3大うどんと言われる「資さんうどん」「ウエスト」「牧のうどん」。……その中でも、牧のうどんには、ひときわ麺のパワーを感じる。

全国展開する資さんうどん、首都圏にも店舗を持つウエストに対し、牧のうどんは福岡・佐賀・長崎と、北部九州を離れずに展開していることにも特別感がある。 だからこそ、九州北部に来たときは、真っ先に行きたくなるのが牧のうどん。

そこで、株式会社釜揚げ牧のうどんで勤続25年を超え、現場を取り仕切る部長の山田雅也さんに貴重なお話を伺い、そのうまさの神髄に少しでも迫った。 一度も行ったことがない人も、もう何度か食べている人も。これを読めば、きっと今まで以上に食べたくなるはず。

目次

人気メニューの秘訣は「社長の家のレシピ」

まず、たくさんのメニューがある牧のうどんにおいて、人気メニューはどれなのか? お時間がある人は、以下のメニュー表から予想してみてほしい。

※写真のメニュー・価格は撮影時のものです。現在は価格が変更されています

福岡うどんの代名詞である、「ごぼう天うどん」が一番人気だと思う人も多いかもしれない。

しかし、山田さんによると、実は「肉ごぼう天うどん」こそがダントツの一番人気。その注文比率は30~40%にものぼる。

なお、2番人気は「肉うどん」。かつてはより人気だったごぼう天うどんは、3番人気となっている。

筆者はいろいろ全国のうどん店を取材しているが、どうやら「肉」の人気アップは全国的な傾向にも思える。

そんな、牧のうどんファンのハートを捉えて離さない「肉」の味付けは、畑中社長の自宅のすき焼きレシピが元になっているという。あ、すき焼きっぽいと思ってたらそうだったんだ!

根強い人気のごぼう天は、若くて柔らかいごぼうが採れる産地を選ぶなどして、ガリガリした食感ではなく、芋のような柔らかさを実現している。

斜め切りで、大きさを均一にするため専用の機械を使用。山田さんいわく、「わざと分厚くしている」という衣。スープに溶け込んだ衣と一緒に食べるのが、また格別というわけ。

なお人気メニューベスト5は、以下のとおり。

1位:肉ごぼう天うどん
2位:肉うどん
3位:ごぼう天うどん
4位:丸天うどん
5位:野菜かきあげうどん

ちなみに、飯類の約6割を占める人気商品が「かしわご飯」で、九州醤油の甘めの味付けが魅力。うどんの付け合わせに頼めば、至福のひとときが約束されたようなもの。

硬さが選べる麺は「30分ゆでる」

牧のうどんが人々のハートをつかむ「麺」。ソフトかつ弾力性のあるもちもち食感は、口に含んだ人の心をわしづかみにする。

原材料は小麦粉・水・塩のみというシンプルな麺だが、ゆで時間は驚くほど長め。基本の「中めん」で約30分、柔めんなら約40分にもなる。

麺を水で締めず、釜から直接丼に盛り付けて提供する「釜揚げ方式」を採用。冷水で締めて温め直す工程がないため、提供スピードが速いのに加え、もちもちの食感が生まれる。

「人間の足踏みのような工程を行う『圧縮機』という機械を使っているんですが、それだけでは均一な圧縮ができません。そこで、『菊もみ』という手作業により適切な圧をかけています」(山田さん)

ちなみに30分もゆでているのに、なぜ頼んでからすぐうどんが出てくるの? 実はこれ、「常時麺をゆで続けるスタイル」だから、いつ行ってもうどんがサッと出てくる。

しかし、誰もがこう思うはず。「そのせいで麺をゆですぎてロスが出たり、逆に麺が足りなくなったりしないの?」

実は麺のゆで量の予測に「過去の細かい来客データ」を使っているそうで、それに加えて長年の職人の勘を組み合わせて麺をゆでている。データと勘、そんなハイブリッドなやり方で、牧のうどんの麺は守られていた。

そして常時麺をゆで、オーダーが入り次第すぐ提供できるから、客の回転率も高くなる。

そのように作っているので、うどん店では珍しく麺の硬さを選べる。

ここで問題。

  • 硬めん
  • 中めん
  • 柔めん

基本的にはこの3種類を選べるが、どの順番で注文が多い?

1位:中めん 約60%(約30分ゆでる)
2位:硬めん 約25〜30%(約7~8分ゆでる)
3位:柔めん 約10%(約40分ゆでる)

という順番なのだ。牧のうどんといえば柔らかい麺のイメージだが、硬めんが意外と多いことに驚く。なお、常連はずっと同じ硬さを食べ続けている人が多いとか。

実は麺の硬度も、創業当時にお客さんに直接ヤワ・チュウ・カタの好みを聞きながら、現在の硬さになったという。民主的だ。 母体は戦後まもなく創業した「畑中製麺所」で、もともと学校給食や食堂向けに麺を卸していたが、先代社長が「牧のうどん」を開業するにあたり、牧のうどん専属の製麺所へと転換した。なお、今も法人として畑中製麺所は存在する。

麺は普通のうどん店の約2倍、500g!

牧のうどんのすばらしさのもう一つが、コスパの良さ。かけうどんは390円から。それでいて普通のうどん店の約2倍、500gという麺量でたっぷり満足できる。飲食店の原価率の目安が30%前後といわれるところを、牧のうどんは「40%超」としている。

山田さんによると、「スープのコストが最も高いが、自社製麺所を持つことで麺のコストを抑え、全体としてリーズナブルな価格を実現している」とのこと。

さらに全18店舗のうち半数以上が自社物件のため、家賃負担がないほか、比較的家賃の安いロードサイドの立地を選ぶことで駐車台数も多く確保し、車社会である九州の地域性に対応している。

こうした取り組みによりコストを抑え、価格への還元につなげている。

さらに、釜から揚げたままのうどんはスープを吸い、どんどん増えていく。それが「減らない」麺とも言われ、一緒に供される「やかん」でスープを継ぎ足しながら食べていくのが定番なのだ。

食べごたえはバツグン。でも、おなかがすいていればペロリとおいしく平らげられる。そんなうれしいボリュームのうどんなんだ。

九州なのに……コロッケうどん?

メニューの話に戻ると、意外な人気アイテムが「コロッケうどん」。

勘のいい人ならもうわかっているかもしれないが、これは東京にある「コロッケそば」から来たメニュー。 「コロッケはじゃがいものでんぷん質がスープと絡み合うし、溶かしながら食べるのが良い」と山田さんも太鼓判を押すメニュー。山田さんの記憶では少なくとも27年前から存在したとか。

富士そばなどによる売り出しにより、今でこそコロッケそばは広く知られるようになったが、少し前までは「影の東京グルメ」に近かった。

そんな中でも、「コロッケ」を取り上げてメニュー化した牧のうどんの先見の明が光る。

さらに熊本産や北海道産などのじゃがいもを使った「新じゃがフェア」も年1回、約1ヶ月間開催している。

さらに、山田さんが個人的に推しているメニューに「緑のてんぷらうどん」なるものがある。

「これがホントの“緑のたぬき”」とでも言いたくなるようなフォルム。

この“問題”の「緑のてんぷら」は、ほうれん草ベースで色づけされたもの。中身は、すり身に切りごぼう、人参、枝豆、イカのゲソなどを混ぜこんだもので、なかなかおいしいという。

ちなみに昔実際に「緑のたぬきと赤い何かを作ろう」という企画があったが、赤いものが紅ショウガなどになり、ピンク色になってしまうことからなくなってしまった。

見てみたかった、牧のうどん版の赤いきつね。

うどん屋で「餃子」

2022年に登場し、現在も17時以降限定で提供されているのが「もっちりジャンボ餃子」。うどんに餃子!? とカルチャーショックを受ける組み合わせだが、山田さんいわく「社長が試食したらおいしかったので採用した」とのこと。

うどん店は夜の集客を課題とするところが多いが、牧のうどんもこの餃子を17時以降に提供することで、夜の客数増加を狙ったのだとか。

脂っこくならないよう、焼き目は付けつつも蒸すように仕上げている。

なお、早良重留店、三川内店、マリナタウン店、空港店、博多バスターミナル店では提供していないので注意

ちなみに、実は山田さんがいいと思っているメニューが「タレつき釜揚げうどん」。そういえば、店名は「釜揚げ 牧のうどん」であり、タイトルチューン的なメニューなのに5位にも入っていないのは意外で、山田さんいわく「うどんのうまみが感じられる」とのこと。

国内のだし用利尻昆布の約7%を使うスープ

牧のうどんはスープにもこだわる。牧のうどんでは「利尻昆布」の使用を信条にし、利尻昆布の中で全体の4割にとどまる「だし用利尻昆布」を使う。

山田さんによると、使用量は年間30トンにもおよび、国内で消費されるだし用利尻昆布の約7%を使用するほど。

山田さんいわく、「約3時間半かけて炊き、だしが濃く出る一番出汁のみを使用している。二番出汁は使わず、使用後の昆布は佃煮にしたり、お客様に無料でサービスしたりしています」とのこと。

糸島の本店でスープを作っていて、そこからおおむね1時間半で配送できるところにしか出店していない牧のうどん。一括で作ることで味のブレを抑え、「やっぱりこの味」を提供しやすいわけ。

なお牧のうどんではスープをベースに、それに合う具材・メニューを選定するという開発思想がある。なので、どの具材をトッピングしてもスープの味を壊さないように作られており、山田さんも「うちのスープに合うものしかメニューに載せていない」と語る。

ちなみに麺の作り方は創業時から変更がないそうだが、スープは代替わり時に昆布などを微調整し、改良を図ってきたという。

最後に気になるのは、新規出店。最近の福岡うどんブームもあり、「もっといろいろな場所に出店してほしい」という声も聞こえてくる。

しかし牧のうどんは店舗は糸島本店から車で1時間半以内に限る。実は、このスープの品質を保って届けられることが大前提だ。

その範囲で条件に合う場所があれば、新店の可能性もあるとのこと。多くの人にとって近所にできる日はなかなか来そうにないが、だからこそ、ここにしかないウマいうどんが食べられる。 EVに乗って、はるばる出かけよう。

※一部画像提供:牧のうどん
※記事は2026年8月時点の内容です。

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筆者:辰井 裕紀
ライター、番組リサーチャー。過去に秘密のケンミンSHOW(NTV系)などを担当し、ローカルの食文化と飲食チェーンを軸に、その土地で愛されるワケに迫る。著書に『強くてうまい!ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)。卓球とガジェットも好き。

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