なぜ7階建て? 敦賀ヨーロッパ軒『味のお城』でカツ丼・パリ丼を堪能し、知られざる上階へ

福井県の南西部、嶺南地方の代表的都市・敦賀市。かつてはここが「東洋の波止場(はとば)」と言われた時代がある。

1912年には新橋―敦賀港―ウラジオストク―シベリア鉄道―ヨーロッパを結ぶ欧亜国際連絡ルートが成立し、当時の日本からヨーロッパへ向かう最短ルートの一つだった。

2024年3月には、北陸新幹線が敦賀駅まで延伸し、敦賀駅が終着駅に。敦賀は旅人が訪れる街として、再び注目を集める。

そんな敦賀で、旅人から地元の人まで、長らく人々の心をわしづかみにしてきたローカルチェーンがある。

目次

52年前に建った、そびえ立つ「味のお城」

その本店は敦賀駅の北にある。駐車場が広く、30台停められるのも車で向かうにはうれしいところ。

駅から北へ向かっていると……はるか彼方に……何かが見えてきた……!? 白亜の宮殿のような……?

さらに進んでみると……徐々に全貌が見えてきた「敦賀ヨーロッパ軒本店」。

1913年に東京・早稲田で開業し、ソースカツ丼の発祥とも語られる。

1924年に関東大震災の影響で創業者の故郷・福井へ移り、1939年、初ののれん分け店として開業したのが敦賀ヨーロッパ軒本店なのだ。

現在の本店は1974年に建てられ、さらに40年ほど前から、敦賀ヨーロッパ軒は法人として完全に独立している。

それにしても……ものすごい迫力の建物である。なんと「単一の飲食店で7階建て」という、なかなかありえないほどのデラックスさ。

地域情報紙では「イギリス風の外観」とも言われており、1974年の竣工当時は、これほど大きな建物はおそらくなかったという。

敦賀駅からも見えたため、この建物を目印にずっと歩いてきたお客さんも多かったのだとか。

五木ひろしやダルマがお出迎え

和風ののれんをくぐると、1階には昔の写真や賞状などが飾られている部屋がある。ここを見るだけで時間が溶けそう。

ここからは敦賀ヨーロッパ軒の創業者・赤坂耕二さんの孫で、勤続43年の杉本芳実さんにお話を伺いながら、店の魅力を堪能していこう。

「千客萬来」「ヨーロッパ軒」と書かれただるまも、看板マスコットとばかりに客人を出迎えてくれる。

何枚もある、五木ひろしさんのポスターたちを横目に2階に上がっていく。福井県三方郡美浜町出身の五木さんは、長らくヨーロッパ軒のファンで、帰郷のたびに訪れるとか。大和田伸也・獏ご兄弟も近所に住んでいた常連で、今も帰省時は店を訪れるという。

かつての「ズームイン!!朝!」(日本テレビ)でも紹介されたヨーロッパ軒。それを知らせるインパクト大のポスターもあった。

そして、客席の前まで来たが……満席だった。

敦賀ヨーロッパ軒には2度来ているが、土曜は13時くらいの来店でもしばらく待った。木曜11時の開店時に行ったときには来店とともに座れたので、参考にしてほしい。

カツが3枚! ド迫力の「カツ丼」

客席はヨーロッパ……というよりもどこか和を感じさせるテイスト。腰をどっかり下ろして落ち着ける。あくまで日本の古き良き「洋食店」といった雰囲気。

まずはお茶でも飲んでひと息。やかんから湯飲みに冷たいお茶を注ぐのも和を感じるが、そのうえ湯飲みに「ヨーロッパ軒」と書かれているのも少しシュール。

そして席に座り「カツ丼」(1,100円/ミニサラダ・みそ汁セット+220円)を注文。10分弱ほどでやってきた。

すでにフタが浮いていて、ただならぬ気配を感じさせるが、そのフタを開けてみると……「どうだ!」とばかりに、3枚ものカツがドーンと載っている!

杉本さんいわく、「最初に訪れた方はみんなカツ丼を注文します」というほどに、ほぼもれなくファーストチョイスになるのがカツ丼なのだとか。

“パ軒のカツ丼”必勝法がある

地元民いわく“パ軒”ことヨーロッパ軒の、大判3枚のカツが載るカツ丼。いかにも食べにくそうに見えるが、食べ方にコツがある。

このように、フタに2枚のカツを移し、ごはんの上に1枚だけ載った状態にする。そうして、1枚ずつ食べていくのだ。

この食べ方を知らないで食べにくそうにしているお客さんがいると、店員さんが教えてくれることもあるという。

ちなみに、カツを1枚だけにしてから見えてくるのが「ごはんの量」。カツだけでなく、白めしもかなりの量があるので、おなかをすかせてから行こう。

そうして、たっぷりのごはんとともに、カツを一枚ずつ食べていくと……うまい! 敦賀ヨーロッパ軒謹製のやや分厚めの肉をかむたびに、肉のうまみやコクが染み出してくる。

杉本さんが「福井のヨーロッパ軒総本店より肉は厚めで、ソースは関西風で少し甘め」と語るとおり、関西に近い嶺南・敦賀らしい味の違いまで感じられる。

賞味期限1週間? 自家製ソースを毎朝作る

ちなみに敦賀ヨーロッパ軒、ソースまで毎日お店で作っているという。防腐剤不使用で鮮度が命のため、杉本さんいわく「日持ちは1週間程度」なのだとか。

本店で仕込んだソースを、敦賀ヨーロッパ軒の5店舗すべてに運んで使うため、本店と同じソースを各店で楽しめる。

ヨーロッパ軒のカツ丼には、このソースがごはんまでふんだんにかかっており、心ゆくまで味わえる。

「ソース味が口に残る」と感じる人もいるかもしれないので、そんな方はみそ汁(110円)を頼み、口をリセットしながら味わうのが個人的におすすめ。

地元人気爆発!「パリ丼」

実はこの敦賀ヨーロッパ軒で生まれた、カツ丼にも負けない人気メニューがある。それが「パリ丼」。「いきなりフランスの首都、“パリ”とかなんなの?」と思うかもしれないが、これは関西で“ミンチカツ”と呼ばれるメンチカツを載せたもの。

これまた、ヨーロッパ……というよりは、和風のセット形式で登場する。

なぜ“パリ丼”というのか? それは敦賀ヨーロッパ軒の創業者・赤坂耕二さんが1970年に料理研修のためヨーロッパへ旅行した際に着想を得たのがきっかけだという。

「ロンドン丼」など他の名前も検討されたそうだが、フランス(パリ)訪問にちなんで「パリ丼」の名前で、1973年から提供が始まった。

それにしても、大ぶりのミンチカツ2枚の迫力!

食べてみると……これまたうまい! カツよりやわらかなミンチ肉の食感が、ごはんとより一体になって感じられ、その味わいをたっぷりのソースとともに楽しめる。

かむたびにジュワッと肉汁が出てくるのもまたいい!

杉本さんによると、敦賀ヨーロッパ軒のお子様ランチにはミンチカツが使われており、敦賀の人はその味が忘れられなくなってパリ丼を好きになることが多いとか。

関西や中京方面から、パリ丼のミンチカツだけを10~20枚購入し、家で冷凍保存して食べる熱狂的ファンもいる。

さらに地元民の間では、代名詞のカツ丼とパリ丼が半々に分かれるほどの人気なのだとか。たしかに、この食感のよさはカツをしのぐものがあるかもしれない。

ちなみに、3番人気に君臨しているのが「スカロップ」。豚もも肉を揚げ、自家製デミグラスソースをかけた料理だ。

不思議な名前とフォルムから、根室名物「エスカロップ」を彷彿とさせるところもあるが、杉本さんいわく直接の関係はないとのこと。

さらに「うちのお肉は冷凍肉を使わず、毎朝肉を仕入れてきて社長が切ります」と、鮮度へのこだわりをアピールする。

味のお城の「知られざる上階」へ

「味のお城」こと敦賀ヨーロッパ軒本店。しかし、訪れる人のほとんどが2階までしか入ったことがないはず。

3階から上は主に団体さん向けのフロアとなるため、「まだ営業しているの?」という声も聞かれるという。

しかし、今も予約さえあれば稼働している。この日も「〇〇ご一行様」という札を見かけた。

実は今回、なかなか見ることのできない上階を杉本さんに案内していただいた。期待に胸を膨らませながら、まず「味のお城」の最上階である7階まで一気に上る。

都合で部屋の半面のみ撮影したが、この倍の大きさがある

そして、この7階から敦賀駅・海・海水浴場が一望できて、バス旅行客などに喜ばれているという。

杉本さんいわく、「ここから、北陸新幹線の建設過程や初めての試験走行、舞鶴若狭自動車道の開通シーンも見られました」と、その興奮のほどが伝わるように語ってくれた。

7階の窓から駅の方面を臨む

この7階は、目安として20名程度からの利用となっているが、10名ほどでも対応できる場合もあるという。

さらに6階が、すき焼き、しゃぶしゃぶなどが楽しめる「お食事処 いろはにほへと」。5階は小宴会場で、4階が本社事務局になっている。

そして3階は、結婚披露宴会場・大宴会場。え、ヨーロッパ軒で結婚披露宴!?

何でも、以前は披露宴にもよく使用されていたが、敦賀市内に結婚式場が増えたため、披露宴利用がなくなって20数年経つとか。

そうであっても、3階の大宴会場は今も健在。ステージがあり、机を並べると約120名収容できる。宴会や結納、小学校の遠足などに利用されているという。

それにしても、「敦賀ヨーロッパ軒の味のお城で結婚披露宴をやった」なんて、一生その話を語れそう。ぜひソースカツ丼好きのカップルがいれば、挑戦してほしい。

支店も楽しい、もう一つの「ヨーロッパ軒」へ

ちなみに敦賀ヨーロッパ軒では、出前も行っている。しかし今では本店だけのサービスになっているのと、人手不足のために出前ができないこともあるようなのでご注意を。

出前の際はこのオリジナルワゴンに乗ってやってくる

また、出前より確実に商品を受け取れるのが「テイクアウト」。ただし繁盛店のため、確実に手に入れるためには前日までに予約しておく必要があるそうなので、早めに連絡してほしい。

支店の一つ、金山店はフランス・アルザス地方の郊外レストランをうたう

ヨーロッパ軒というと福井の総本店を思い浮かべる人も多く、そちらも魅力的な店だが、この敦賀ヨーロッパ軒も、ここにしかない良さが感じられる店であることは間違いない。

北陸の中でも南のほうなので、近畿地方からも少し足を延ばせばたどり着ける敦賀。全国のローカルチェーンを見渡しても類を見ない「味のお城」。

一般客がまず目指すのは2階。いつか7階まで上がってみたいと夢見つつ、まずは『味のお城』のカツ丼とパリ丼を味わおうじゃないか。

これからは行楽の季節。少しずつ涼しくなる風に乗って、EVとともに出かけよう。

※一部写真提供:敦賀ヨーロッパ軒
※記事は2026年8月時点の内容です。

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筆者:辰井 裕紀
ライター、番組リサーチャー。過去に秘密のケンミンSHOW(NTV系)などを担当し、ローカルの食文化と飲食チェーンを軸に、その土地で愛されるワケに迫る。著書に『強くてうまい!ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)。卓球とガジェットも好き。

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